大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)70号 判決 1961年1月27日
判決
大阪市南区西賑町二五
控訴人
楠田金属株式会社
右代表者代表取締役
楠 田 忠 雄
(外二名)
右三名控訴代理人弁護士
渡 辺 昇 治
東京都荒川区尾久町一〇丁目一八九九番地
被控訴人
富岳興業株式会社
右代表者代表取締役
矢 島 一 郎
右訴訟代理人弁護士
唐 沢 高 美
荻 矢 頼 雄
主文
原判決を取消す。
大阪地方裁判所昭和三三年(ヨ)第二八七三号仮処分申請事件について昭和三三年一二月九日なされた処分決定を取消す。
被控訴人の本件仮処分命令申請を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
本判決は仮りに執行できる。
事実
控訴人等は主文同旨の判決を求め、
被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。
(中略)
理由
被控訴人主張の原判決事実記載申請の理由第一第二、第三項の事実は控訴人等の認めるところである。
よつて、控訴人等製造販売の本件スパイクが被控訴人所有の本件実用新案権の権利範囲に属するかどうかについて判断する。
成立に争ない甲第二号証によれば、被控訴人所有の本件実用新案権の考案要旨は、原判決添附別紙第一図面記載のとおり、運動靴の半底又はかがと底に適合するよう条帯1を以て形成した環状金具Aの要所より下向きの突片2、3、4を連突したスパイクにおける、条帯1の中央と、突片2、3、4の下端部を除く中央に、凹溝5、6、7、8をそれぞれ連通するように形成し、該凹溝の裏面に金具Aと突片2、3、4の補強リム5'、6'、7'、8'を連成するように設けてある構造にあるものと認められる。
控訴人等の各製品であること争ない検甲第二、第三号証、第四号証の一、二によれば、控訴人等各製造販売の本件スパイクの構造は、原判決添附別紙第二図面記載のとおり、運動靴の半底又はかかと底に適合するよう鈑金を打抜いて条帯部1を形成した環状金具Bの要所より下向きの突片2、3、4を連突したスパイクにおいて条帯1の中央に、凹溝部5、5'5"を互いに連通しないように形成するとともに、突片2、3、4と金具Bとの連接屈曲境界部に、それぞれ凹溝部5、5'5"に互いに連通しないように、斜溝部67、8を形成し、且つ凹溝部5、5'、5"と斜溝部6、7、8とによりその裏面に生ずる補強リムがそれぞれ互いに連通しないように形成して成る構造を有するものと認められる。
よつて、両者の構造に対比してみると、
本件実用新案の、「運動靴の半底またはかがと底に適合するよう条帯1をもつて形成した環状金具Aの要所より下向きの突片2、3、4を連突したスパイクにおいて、条帯1の中央に凹溝5を形成し、その裏面に補強リム5'をけた」点の構造と、
本件スパイクの、「運動靴の半底又はかがと底に適合するよう鈑金を打抜いて条帯部1を形成した金具の要所より下向きの突片2、3、4を連突したスパイクにおいて、条帯部1の中央に凹溝部5、5'、5"を形成し、凹溝部5、5'、5"により生ずる補強リムを形成した」点の構造と
は殆んど一致しているものと認められる。
しかし、本件実用新案においては、突片2、3、4の下端部を除く中央に凹溝6、7、8を形成し、条帯1の中央に形成した凹溝5と上記凹溝6、7、8とをそれぞれに連通しているのに対し、
本件スパイクにおいては、本件実用新案における突片2、3、4の下端部を除く中央に形成した凹溝6、7、8に相当する構造を具えていないで、突片2、34と金具Bとの連接屈曲境界部にそれぞれ斜溝部6、7、8を形成し、且つ条帯1の中央に形成した凹溝部5、5'、5"を連通していない。
ところで、ある実用新案権が甲乙丙三個の要部の結合した考案である場合、甲乙二個の要部がいわゆる文献公知であつても、その実用新案権の権利範囲が公知の要部を除外した丙部のみに限定されるものではない。
しかし、右の場合、甲乙二個の要部がいわゆる文献公知であれば、その実用新案権の権利範囲の重点は公的の要部を除外した丙部にあると解すべきものである。
そうすると、右のような実用新案権の権利範囲に、右の甲、乙二個の公知の要部を含む甲、乙、丙三個の要部より成るある製品が属するか否かを判断する場合、丙部と丙部との類否に判断の重点をおけばよいことになる。
これを本件についてみると、成立に争ない乙第九号証によれば環状金具と突片が一体に形成せられた運動靴用スパイクの構造に関し、環状金具の帯状部に凹溝を設けて力を増加したものは、大正一〇年一一月二八日登録実用新案第六〇九五一号の公報に記載されていて、本件実用新案権出願前に公知であることが認められる。又成社に争ない乙第一〇号証によれば、環状金具と突片との連接屈曲部に斜梁(凹溝)に設けて、この部の力を増加したものは、昭和二五年実用新案出願公告第一六八四号公報に記載せられていて、本件実用新案権出願前に公知であることが認められる。
そうすると、本件実用新案権の権利範囲の重点は、条帯1の中央に形成した凹溝5と、突片2、3、4の下端部を除く中央部に形成のた凹溝6、7、8とをそれぞれに連通している点にあるものと解される。
従つて、前記両者の構造の相違点によれば、本件スパイクは本件実用新案権の権利範囲に属しない。
よつて、被控訴人の本件仮処分申請は、失当であるから、これを棄却すべく、原判決、原決定を取消し、民事訴訟法第八九条、第九六条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第八民事部
裁判長裁判官 石 井 末 一
裁判官 小 西 勝
裁判官 井野口 勤